YOL事件控訴審:創作性(記事見出しの著作物性)

平成17年10月6日判決 平成17年(ネ)第10049号 著作権侵害差止等請求控訴件
知財高裁4部(塚原朋一裁判長,田中昌利裁判官,佐藤達文裁判官)
百選[4版]4事件,中山39頁,高林35頁
判決全文

  • 原告・控訴人(読売新聞社)は,運営するヨミウリ・オンラインの記事見出しをYahooニュースに有償で提供している。被告・被控訴人は,Yahooニュースの記事を選択し,自身のウェブサイト上でYahooニュースへのリンクを張り,そのタイトルを上記記事見出しと同一又は実質的に同一なものとして記載し,また,自身のサービスの登録ユーザーのサイト上にも,上記リンク及び見出しが表示できるようにした。原告が,ヨミウリ・オンラインの見出しについて著作権(複製権,公衆送信権)の侵害を主張し,また,被告の行為を不法行為として,見出しの複製等の差止め及び損害賠償を求めた。なお,控訴審で記事の複製権の侵害,不正競争法2条1項3号の不正競争行為等の主張を追加した。
  • 見出しの著作権侵害との主張について
    • 「一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。/しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。」
        1. 「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」との見出しについて)上記のような対句的な表現は一般に用いられる表現であって,ありふれた表現の域を出ないのであり,著作物として保護されるような創作性があるとは到底いうことができない。
        2. 「A・Bさん,赤倉温泉でアツアツの足湯体験」との見出しについて)「A・Bさん,赤倉温泉で足湯体験」という部分は,客観的な事実関係をそのまま記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない上,「アツアツ」との表現も普通に用いられる極めて凡俗な表現にすぎない。そして,「アツアツ」という一つの言葉から,仲睦まじい様子と湯に足を浸している様子の双方が連想されるとしても,そのような表現も通常用いられるありふれたものであるといわざるを得ない。
        3. 「道東サンマ漁,小型漁船こっそり大型化」との見出しについて)「道東サンマ漁,小型漁船大型化」という部分は,客観的な事実関係をそのまま記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない上,「こっそり」との表現も普通に用いられる表現にすぎない。記事本文に登場しない「こっそり」という言葉を用いて,記事の背後にある社会的事象に対する記者自身の印象を伝え,また,小型漁船の「ずるさ」を読者に印象付けようとした意図したものであるとしても,そのこと自体は,アイデアの域を出ないものであって,見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。
        4. 「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突,1人死亡」との見出しについて)「中央道走行車線に停車」,「追突など14台衝突,1人死亡」という部分は,客観的な事実関係をそのまま羅列して記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない。インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては,以前から,記事見出しの中に「=」,「−」,「…」などの各種記号を用いてする表現は,広く多用されているものと認められ,特段の創作性が認められるわけではない。
        5. 「国の史跡傷だらけ,ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」との見出しについて)「国の史跡」,「ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」という部分は,記事中に存在する名詞を羅列しただけのもので,表現上,特段の工夫もみられない。また,「傷だらけ」との表現も,それ自体が一般的に用いられる表現である上,上記記事が伝えようとする事実からそれほどの困難もなく想起し得るものであって,格別の創作性を見いだすことはできない。
        6. 「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」との見出しについて)「日本製インドカレー」,「EUが原産地ルール提案」という部分は,客観的な事実関係をそのまま羅列して記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない。一般に「ダメ」であることを表すのに「×」の記号を用いることは極めてありふれている上,インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては,種々の記号を用いてする表現は,広く多用されているものと認められることは既に判示したとおりであり,「×」という記号を用いたことも,上記各種記号を用いることの域を出ないものというべきである。
  • 不正競争防止法違反との主張について
    • 不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感であると解するのが相当であるから,仮に,見出しを模倣したとしても,不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」を模倣したことには該当しない。
  • 不法行為との主張について
    • 不法行為民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立する。
    • 本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等ニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。
    • 一方,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
    • そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。