ゆうメール商標事件

平成24年1月12日判決 平成22年(ワ)第10785号 商標権侵害差止請求事件
東京地裁民事第47部(阿部正幸裁判長,志賀勝裁判官,小川卓逸裁判官)
判決全文

  • 事案の概要
    • 本件は,本件商標権(登録商標:ゆうメール,指定役務:各戸に対する広告物の配布,広告,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,広告用具の貸与)を有する原告が,被告が本件商標と同一又は類似の標章を本件商標権の指定役務と同一又は類似の役務に使用し,本件商標権を侵害しているとして,被告に対し,商標法36条1項に基づき上記標章の使用の差止めと,同条2項に基づくスタンプ等の廃棄を求める事案である。
  • 争点
    • 被告が被告各標章を被告各役務に使用することが,原告の本件商標権を侵害するか(争点1)
      • 被告各役務は,本件商標権の指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」と同一又は類似の役務であるといえるか(争点1−1)
      • 本件商標と被告各標章は同一又は類似の商標であるか(争点1−2)
      • 被告が被告各標章を用いて提供する役務が,法2条3項の使用に該当するか(争点1−3)
    • 本件商標は,商標登録無効審判により無効にされるべきもので,原告の本件商標権の行使は許されないか(争点2)
    • 原告の本件商標権の行使が権利の濫用に当たり許されないか(争点3)
  • 争点1−1
    • 原告の主張
      • 被告は,被告各役務の利用条件として,内容品を確認できるよう求めており,配達物が広告物であることも認識してこれを受領し,配布している。さらに,被告は,広告物の企画,プロモーションにまで手を広げ,自らの配布役務の中に取り込んで積極的に役務の提供を行っている。よって,被告各役務は,「各戸に対する広告物の配布」「広告」にあたる。
    • 被告の主張
      • 被告各役務は,配達可能な荷物を広告物であると否とを問わずに配達するものであり,広告物の配達の用にのみ供されるものではない。また,配達の相手先も特定の者であるから,「不特定の者にひろくくばる」ことを意味する「各戸に対する広告物の配布」にはあたらないし,「広告」にもあたらない。
    • 裁判所の判断
      • 被告各役務の配達の対象が広告物であるときは,被告各役務は,(利用者の指定した)荷受人の住所又は居所に広告物を配り届ける役務である。他方,本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味するから,両役務は,「広告物を配る」という点において共通する。利用者が,多数の家々に被告各役務を利用すると,両役務は,広告物を広く行き渡るように家々に配るという点で,ほぼ同一の内容となる。
  • 争点1−2,1−3(省略)
  • 争点2
    • 被告の主張
      • (商標法4条1項15号該当性)「ゆうパック」という商標は,被告が提供する役務及び関連商品の商標として受容者に広く認識されており,「ゆう○○」という商標は,郵政事業に関係する商品・役務に関しては,被告又は日本郵政の使用する商標として受容者に認識されているところ,本件商標(ゆうメール)は,「ゆうパック」と類似していること,郵政事情に関連する役務に用いられた「ゆう○○」という商標であることから,被告の役務であるとの出所混同のおそれがある。なお,原告には不正の目的が認められる。
      • (商標法4条1項7号該当性)上記のとおり,本件商標は,被告の商標と類似するなどしていることから,原告の本件商標登録には不正目的がうかがわれる。また,郵政公社が原告との共同事業を検討しなかったところ,原告は,被告が「ゆうメール」の商標を使用した後に,自ら使用実績を作った上で差止めを求めている。これらの事情からすれば,本件商標は,公序良俗を害するおそれがある。
      • (商標法4条1項19号該当性)上記のとおり,原告には不正の目的がうかがわれる上,本件商標により,「ゆうパック」と「郵政公社」との一対一の対応関係が崩されるから,他人の周知商標と類似するものである。
      • (商標法4条1項16号該当性)「ゆう」の語を含む本件商標を使用すると,被告の「ゆうパック」と質の異なる役務が,あたかも郵便を利用した役務であるかのごとく役務の質について誤認を生ずるおそれがある。
      • (以下省略)
    • 原告の主張(省略)
    • 裁判所の判断
      • (商標法4条1項15号該当性)
        • 「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標が含まれると解するのが相当であり,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務と他人の業務に係る役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
        • 本件商標登録時,「ゆうパック」は,全国的に著名な商標となっていたことが認められる。
        • しかし,「ゆうパック」と「ゆうメール」とは,外観は「ゆう」が共通するだけで全体として異なったものであり,呼称は異なり,その概念も,「ゆう」だけではいかなる観念が生じるか直ちに明らかではなく,「メール」「パック」の観念は異なる。したがって,両商標は類似性が乏しい。
        • 「ゆう」自体,ひらがな二文字から構成される短い言葉であること,「郵」以外にも「ゆう」に対応する漢字が多数考えられること,などから,必ずしも「ゆう」が「郵」を意味するとはいえない。
      • (商標法4条1項7号該当性)
        • 原告が,本件商標の登録出願をした…当時において,郵政公社が「ゆうメール」の標章を同社の役務に使用することについて具体的な話がされていたことをうかがわせる事実は認められず,また,近い将来において,郵政公社が「ゆうメール」の標章を使用する可能性を予想させる事情も認められず,さらに,「ゆうパック」と本件商標とが類似しないことをも併せ考慮すると,原告による本件商標の登録出願に,不正の目的があったと認めることはできない。
        • 郵政公社は,被告標章1(ゆうメール)について,指定役務を第35類の広告等として商標登録を出願し,本件商標の登録があることを理由にその出願が拒絶されたにもかかわらず,郵政公社から事業を引き継いだ被告は,本件商標と同一又は類似の標章である被告各標章を,本件指定役務と類似する役務について使用している。他方,原告は,Aに対し,本件商標権について通常使用権を許諾し,Aは,本件商標を使用し,広告物を配布する役務を提供しており,また,原告自身も,本件商標を使用し,広告物を配布する役務を提供している。このような事実経過にかんがみれば,現時点において,被告各標章が被告の役務を表すものとして周知・著名になっているとしても,本件商標は,被告が被告各標章の使用を実際に開始する4年以上前に,…不正の目的なく出願されたもので,しかも,その後,実際に使用されているものであるといえるから,本件商標が事後的に公序良俗に反するものになったと認めることはできない。
      • (以下省略)
  • 争点3(省略)