ライブドア裁判傍聴記事件控訴審:創作性(裁判傍聴記の著作物性)

平成20年7月17日判決 平成20年(ネ)第10009号 発信者情報開示等請求控訴事件
知財高裁3部(飯村敏明裁判長,中平健裁判官,上田洋幸裁判官)
判時2011号137頁,判タ1274号246頁,百選[4版]5事件,高林24頁
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告・控訴人は,東京地裁で開かれたA(堀江貴文)に対する証券取引法違反被告事件の公判期日における証人尋問を傍聴した結果をまとめた傍聴記をインターネットを通じて公開している。被告・被控訴人の管理・運営する「Yahoo!ブログ」サービスを利用するブログに,原告の傍聴記に類似するブログ記事が原告に無断で掲載された。このため,原告は,上記ブログ記事が原告の傍聴記の著作権を侵害すると主張して,いわゆるプロバイダ責任制限法4条1項に基づき,ブログ記事の発信者の情報開示を求めるとともに,著作権法112条2項に基づき,ブログ記事の削除を求めた。
  • 著作権侵害との主張について
    • 著作権法2条1項1号所定の『創作的に表現したもの』というためには,当該記述が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でないが,記述者の何らかの個性が表現されていることが必要である。言語表現による記述等の場合,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,記述者の個性が現われていないものとして,『創作的に表現したもの』であると解することはできない。」
    • 「また,同条所定の『思想又は感情を表現した』というためには,対象として記述者の『思想又は感情』が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら『事実』(この場合における『事実』とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば『誰がいつどこでどのようなことを行った』,『ある物が存在する』,『ある物の態様がどのようなものである』ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の『思想又は感情』を表現したことにならないというべきである(著作権法10条2項参照)。」
    • 証言内容を記述した部分は,証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。
    • 冒頭部分において,証言内容を分かりやすくするために,大項目及び中項目等の短い表記を付加しているが,このような付加的表記は,大項目については,証言内容のまとめとして,ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず,また,中項目については,いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから,原告の個性が発揮されている表現部分はなく,創作性を認めることはできない。
    • 原告は,傍聴記について,(1) 証人の経歴に関する部分を主尋問と反対尋問から抽出している,(2) 実際に証言された順序ではなく,時系列にしたがって順序を入れ替えて記載している,(3) 固有名詞を省略したなどの創意工夫があるため,創作性が認められるべきである旨主張するが,経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず,表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないし,実際の証言の順序を入れ替えたり,固有名詞を省略したことが,原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。