ふぃーるどわーく多摩事件:地図の著作物性

平成13年1月23日判決 平成11年(ワ)第13552号 著作権に基づく損害賠償等請求事件
東京地裁46部(三村量一裁判長,村越啓悦裁判官,中吉徹郎裁判官)
判時1756号139頁,百選[4版]10事件,中山82頁,高林60頁
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告は歴史研究者であるが,新選組に関する史実,人物に自己の感想を付し,多摩地方の史跡・資料館等巡りを通して照会した「ふぃーるどわーく多摩」という書籍(原告書籍)を著作・出版した。被告らは,「土方歳三の歩いた道ー多摩に生まれ多摩に帰る」という書籍(被告書籍)を出版したが,その作成に際し,原告書籍を参照し,かつ,甲州の史跡に関して原告の執筆した原稿(原告原稿)を一部使用した。被告書籍の作成に先立ち,原告被告間に交渉があったが,合意の内容については争いがある。
    • 原告は,被告書籍が原告書籍及び原告原稿の一部を複製したものと主張して,出版等差止め,損害賠償その他を請求した。
    • なお,原告書籍中に複数の地図及び見取図が存在しているところ,被告は原告書籍が全体として著作物性を有することを認めながらも,地図が著作物性があるというには,都市の存在,名称,交通施設の状態など,自然科学的,準自然科学的情報の取捨選択について創作性が認められる必要があるとし,被告書籍中の地図は,その表現形式に(原告書籍中の地図とは異なる)独自の考慮を用いているから,(原告書籍中の地図が創作性を有するとしても)原告書籍中の地図を「複製」したとはいえないと主張した。(地図の著作物性以外の争点は省略)
  • 地図の著作物性について
    • 「一般に,地図は,地形や土地の利用状況等を所定の記号等を用いて客観的に表現するものであって,個性的表現の余地が少なく,文学,音楽,造形美術上の著作に比して創作性を認め得る余地が少ないのが通例である。それでも,記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては,地図作成者の個性,学識,経験,現地調査の程度等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表われ得るものということができる。そして,地図の著作物性は,右記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して,判断すべきものである。」
    • 「そこで,[原告書籍中の]地図について検討すると,例えば…『竜源寺』の地図では,全体の構成は,現実の地形や建物の位置関係がそのようになっている以上,これ以外の形にはなり得ないと考えられるが,読者が最も関心があると思われる『近藤勇胸像』や『近藤勇と理心流の碑』等を,実物に近い形にしながら適宜省略し,デフォルメした形で記載した点には創作性が認められ,この点が同地図の本質的特徴をなしているから,著作物性を認めることができる。他方,たとえば…『関田家及び大長寺周辺』の地図などは,既存の地図を基に,史跡やバス停留所の名前を記入したという以外には,さしたる変容を加えていないので、特段の創作性は認められない。」