廃墟写真事件:翻案,アイデア・表現二分論(廃墟写真における被写体の選択,構図,撮影方向)

平成22年12月21日判決 平成21年(ワ)第451号 損害賠償等請求事件
東京地裁民事46部(大鷹一郎裁判長)
判決全文

  • 原告が撮影した廃墟写真(複数)と同一の被写体を,被告が撮影し,それらの写真を掲載した各書籍を出版及び頒布した行為が,著作権(翻案権,原著作物の著作権者としての複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したなどと主張。
  • 著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解されるところ,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分や表現上の創作性がない部分は,ここにいう既存の著作物の表現上の本質的な特徴には当たらないというべきである。
  • 本件において,原告は,「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち,原告写真の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨主張しているので,被告写真の作成がこれに対応する原告写真の翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,原告が主張する原告写真における被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が上記のような表現上の本質的な特徴に当たるかどうか被告写真において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある。
  • 原告写真において,特定の廃墟をを被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく,また,その撮影構図ないし撮影方向のみをもって,原告が主張するような印象や見る者に与える強いインパクトを感得することができるものではないから,原告写真における被写体及び構図ないし撮影方向そのものは,表現上の本質的な特徴ということはできない。
  • 原告写真と被告写真とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており,被告写真から原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。