アリカ商標最高裁判決:「商品の販売に関する情報の提供」

平成23年12月20日判決 平成21年(行ヒ)第217号 審決取消請求事件
最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長,那須弘平裁判官,田原睦夫裁判官,岡部喜代子裁判官,寺田逸郎裁判官)
判決全文

  • 請求の概要
    • Yが有する商標登録につき,Xが,商標法50条1項に基づき,指定役務のうち第35類に属する本件対象役務についての不使用を理由に,本件対象役務に係る商標登録の取消しの審判を請求したところ,特許庁が本件対象役務に係る商標登録を取り消すべき旨の審決をしたことから,Yが同審決の取消しを求める事案である。
    • Yは,本件対象役務のうち,「商品の販売に関する情報の提供」(本件指定役務)についての登録商標の使用をしていると主張して争っている。
  • 事実の概要
    • Yは,自社のウェブサイトにおいて,自社が開発したゲームソフトを紹介するのに併せて,本件商標を表示して,平成16年10月12日,自社が開発に携わりAが販売するゲームソフトにつき,その発売日,プレイヤー人数,価格等を表示し,また,平成17年1月23日,自社が開発したゲームソフトに用いられた楽曲を収録したBの販売する音楽CDにつき,その内容,仕様,価格,発売日,購入方法等を表示した。利用者は,上記ウェブサイトを介して,本件各商品を販売する上記の各会社のウェブサイトを閲覧し,同ウェブサイトにおいて本件各商品を購入することができるようになっていた。
  • 最高裁の判断
    • 商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は,商標法施行令別表の区分に付された名称,商標法施行規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質,国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明,類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などを参酌して解釈するのが相当である。
    • 上記に説示したところを踏まえて,省令別表第35類3に定める「商品の販売に関する情報の提供」の意義について検討する。
      • 政令別表第35類は,その名称を「広告,事業の管理又は運営及び事務処理」とするものであるところ,上記区分に属するものとされた省令別表第35類に定められた役務の内容や性質に加え,本件商標登録の出願時に用いられていた国際分類(第7版)を構成する類別表注釈が,第35類に属する役務について,「商業に従事する企業の運営若しくは管理に関する援助又は商業若しくは工業に従事する企業の事業若しくは商業機能の管理に関する援助を主たる目的とするもの」を含むとしていること,「商品の販売に関する情報の提供」は,省令別表第35類中の同区分に属する役務を1から11までに分類して定めているうちの3において,「経営の診断及び指導」,「市場調査」及び「ホテルの事業の管理」と並べて定められ,類似商品・役務審査基準においても,これらと同一の類似群に属するとされていることからすれば,「商品の販売に関する情報の提供」は,「経営の診断及び指導」,「市場調査」及び「ホテルの事業の管理」と同様に,商業等に従事する企業の管理,運営等を援助する性質を有する役務であるといえる。このことに,「商品の販売に関する情報の提供」という文言を併せて考慮すれば,省令別表第35類3に定める「商品の販売に関する情報の提供」とは,商業等に従事する企業に対して,その管理,運営等を援助するための情報を提供する役務であると解するのが相当である。そうすると,商業等に従事する企業に対し,商品の販売実績に関する情報,商品販売に係る統計分析に関する情報などを提供することがこれに該当すると解されるのであって,商品の最終需要者である消費者に対し商品を紹介することなどは,「商品の販売に関する情報の提供」には当たらないというべきである。
      • なお,本件商標登録の出願時に用いられていた前記国際分類を構成する類別表注釈では,第35類に属する役務について,平成9年1月1日に発効した改訂によって,「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く。),顧客がこれらの商品を見,かつ,購入するための便宜を図ること」が同類に属する役務に含まれる旨の記載が追加されており,その後,平成18年法律第55号により,商標の使用対象となる役務として「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が追加されて(商標法2条2項),これに伴い,商標法施行令別表第35類に小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供の役務が追加され,商標法施行規則別表第35類にも,接客,カタログを通じた商品選択の便宜を図ることなど商品の最終需要者である消費者に対して便益を提供する役務が商標の使用対象となる役務として認められるようになったなどの経緯がある。しかしながら,本件商標登録の出願時には,上記の法令の改正はいまだ行われていなかったのであって,上記の経緯を考慮しても,本件商標登録の出願時に,消費者に対して便益を提供する役務が,上記の法令の改正等がされる以前から定められている省令別表第35類3の「商品の販売に関する情報の提供」に含まれていたものと解する余地はないというべきである。
    • そこで,本件各行為について検討すると,前記事実関係によれば,本件各行為は,Yのウェブサイトにおいて,Yが開発したゲームソフトを紹介するのに併せて,他社の販売する本件各商品を消費者に対して紹介するものにすぎず,商業等に従事する企業に対して,その管理,運営等を援助するための情報を提供するものとはいえない。したがって,本件各行為により,Yが本件指定役務についての本件商標の使用をしていたということはできない。