スメルゲット事件控訴審:写真の著作物(立体物の撮影)

平成18年3月29日判決 平成17年(ネ)第10094号 請負代金請求控訴事件
知財高裁4部(塚原朋一裁判長,田中昌利裁判官,清水知恵子裁判官)
判タ1234号295頁,百選[4版]13事件,中山90頁,高林24頁
判決全文

  • 事案の概要
    • インターネット上のホームページで商品の広告販売を行うA社から営業権の譲渡を受けた原告(控訴人)が,Aの著作物である本件写真1(固形据え置きタイプの商品),本件写真2(霧吹きタイプの商品)及び文章を被告ら(被控訴人ら)が無断で利用したことが著作権侵害に該当し,同侵害により生じた損害賠償請求権をAより譲り受けたと主張して,被控訴人らに対し,損害賠償を求めた。
    • 被控訴人らは,本件写真1,本件写真2(あわせて「本件各写真」という。)は著作物には該当しないとして争った。(文章についての判断は割愛する。)
  • 本件各写真の著作物性及び著作権侵害の有無
    • 総論
      • 「写真は,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影の付け方,色彩の配合,部分の強調・省略,背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。」
      • 「このような表現は,レンズの選択,露光の調節,シャッタースピード被写界深度の設定,照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば,オートフォーカスカメラやデジタルカメラ機械的作用を利用した結果として得られることもある。また,構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても,偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように,撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。」
      • 「そして,ある写真が,どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを,その写真自体から知ることは困難であることが多く,写真から知り得るのは,結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず,静物や風景を撮影した写真でも,その構図,光線,背景等には何らかの独自性が表れることが多く,結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ,創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。」
      • 「もっとも,創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。」
    • 本件各写真の著作物性
      • 「本件写真1は,固形据え置きタイプの商品を,大小サイズ1個ずつ横に並べ,ラベルが若干内向きとなるように配置して,正面斜め上から撮影したものである。光線は右斜め上から照射され,左下方向に短い影が形成されている。背景は,薄いブルーとなっている。/本件写真2は,霧吹きタイプの商品を,水平に寝かせた状態で横に2個並べ,画面の上下方向に対して若干斜めになるように配置して,真上から撮影したものである。光線は右側から照射され,左側に影が形成されている。背景は,オフホワイトとなっている。」
      • 「以上から,本件各写真には,被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているということができる。」
      • 「なお,…本件各写真は,同じタイプの商品を撮影した被控訴人らによる写真と比較しても,被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,色彩の配合,背景等が異なっており,これらの要素を総合した全体の表現としても,異なる印象を与えるものである。」
      • 「本件各写真については,…被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているのであるから,創作性の存在を肯定することができ,著作物性はあるものというべきである。他方,…その創作性の程度は極めて低いものであって,著作物性を肯定し得る限界事例に近いものといわざるを得ない。」
    • 本件各写真の複製権の侵害の有無
      • 「本件各写真の創作性は極めて低いものではあるが,被控訴人らによる侵害行為の態様は,本件各写真をそのままコピーして被控訴人ホームページに掲載したというものであるから,本件各写真について複製権の侵害があったものということができる。」
  • メモ
    • 本件各写真はこちらで確認できる。