ナーナニーナ商標事件:商標の類似性

平成23年12月16日判決 平成21年(ワ)第24207号等 不当利得返還請求事件
東京地裁民事40部(岡本岳裁判長,坂本康博裁判官,寺田利彦裁判官)
判決全文

  • 事案の概要(商標権に関する部分に限る。)
    • 本件商標権の商標権者であるXが,Yが化粧品,化粧雑貨等の商品にY標章を付して販売する行為は本件商標権を侵害するとして,Yに対し,商標権侵害による不当利得金返還を求めた。
  • Y標章


  • 判断
    • 商標の類似性の判断基準
      • 商標法37条1号の「指定商品…についての登録商標に類似する商標の使用」に該当するか否かの判断において,商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであるが,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,上記3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,出所を混同するおそれが認められないものについては,これを「類似する商標」と認めることはできない。
    • 本件商標
      • 本件商標は,片仮名の標準文字で「ナーナニーナ」と左から右へ横書きにしてなるものであって,「ナーナニーナ」の称呼を生じ,特定の観念を生じない造語と認められる。
    • Y標章
      • Y標章は,小文字のアルファベットからなる「na」,「nan」及び「na」の3つの部分を左から右へ横書きにしてなるものであり,第1の部分「na」と第2の部分「nan」との間には,左方向に横転し右方向へ払うように湾曲した横長のハート形の図形(本件図形1)が配されており,また,第2の部分「nan」と第3の部分「na」との間には,左方向に横転し右方向に払うように湾曲した本件図形1より更に横長のハート形の図形(本件図形2)が上部に配され,本件図形2の左下に,本件図形2に接する縦棒状の図形(本件縦棒図形)が,本件図形2の右下に,左斜め下方向を向き右斜め上方向に払うように湾曲した本件図形1よりも小さなハートの図形(本件図形3)がそれぞれ配されている。
      • そして,本件棒状図形は,その左右に配された「n」の縦のラインと同様の書体,太さで表現されていることから,需要者において,アルファベットの一部を表したものと理解されるものと認められる。また,本件図形2は本件棒状図形の上部から右方向へ流れるように配されており,本件棒状図形がアルファベットの一部を表したものと理解されることに鑑みると,需要者は,本件図形2につき,アルファベットの一部をハート形の図形をもって表現したものと理解するものと認めるのが相当であり,需要者は,本件棒状図形と本件図形2を併せて,小文字のアルファベットの「i」をデザイン化して表したものと認識するものといえる。
      • したがって,被告標章は,「na」,本件図形1,「nani」,本件図形3,「na」を左から右へ表したものということができる。そして,「na」「nani」「na」をローマ字読みすれば,「ナ」「ナニ」「ナ」,すなわち「ナナニナ」の称呼を生じるが,ローマ字において長音記号「ー」は用いられないこと,本件図形1及び本件図形3は,多少変形したものではあるがいずれもハート形の図形であることからすると,需要者は,装飾的なものとしてハート形の図形が用いられているものと認識し,Xが主張するように,これらの図形を需要者が長音記号「ー」として認識すると認めることはできず,Y標章から「ナーナニーナ」の称呼を生じると認めることはできない。
      • そうすると,Y標章の称呼は「ナナニナ」であり,アルファベットと図形を組み合わせて作成された造語であって特定の観念は生じないものといえる。
    • Xの主張について
      • Xは,被告標章は被告のみならず需要者からも広く「ナーナニーナ」と称呼されてきたと主張するが,以下のように,被告又は需要者が被告標章を「ナーナニーナ」と称呼することを認めるに足りる証拠はない。
        • Y商品のパッケージ,容器,リーフレットにはY標章が付されているが,振り仮名等は記載されておらず,Y標章がどのような称呼を生じるのかについての記載は全くない。
        • Y商品を紹介する雑誌記事においてY標章が小さく記載されているが,その称呼については全く記載がない。
        • Yのホームページにおける被告商品を紹介するページにはY標章が掲載されており,当該画面をプリントアウトした場合にはそのヘッダー部分の一部に「ナーナニーナ」と記載されることが認められるが,Y標章が表示された画面上には被告標章がどのような称呼を生じるのかについての記載は全くない。また,ヘッダー部分の記載は当該ページの画面自体には表示されておらず当該ページをプリントアウトして初めて需要者に認識されるものと認められる上,Y標章と「ナーナニーナ」の記載の間には他の記載が存在しており両者を結びつけるような記載は認められない。
        • Yの従業員が被告商品を「ナーナ商品」,「ナーナニーナMEZAIKミルキーダブラー」などと呼んでいたことが認められるが,[X,Y,訴外A社の]業務提携においては,YとAの各商品のブランドを統一し,ドラッグストア等のピンクゾーンにおける標準ブランドとして「ナーナニーナ」を採用し,これを前提にXが本件商標につき商標登録の出願手続を行い,実際にYは「ナーナニーナ」ブランドとしてY商品を製造販売していたのであるから,Yの従業員は,本件業務提携における標準ブランドとしての「ナーナニーナ」を指して上記のように呼んでいたものと認めるのが相当であり,他方,Yの従業員がY標章を指して「ナーナニーナ」と呼んでいたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
        • Y商品のリーフレットには,Y商品4につき「ナーナニーナブランドとして,装いも新たにシリーズラインアップです。」と記載されているが,これは,Y商品4を本件業務提携における標準ブランドである「ナーナニーナ」ブランドとして発売することを意味すると認めるのが相当であり,上記記載を理由にY標章から「ナーナニーナ」の称呼が生じるとは認められない。
        • Yが取引先に送付した文書には「ナーナニーナ」の記載が数箇所認められるが,いずれの記載も,本件業務提携における標準ブランドとしての「ナーナニーナ」を意味するものと認めるのが相当であり,同記載を理由にY標章から「ナーナニーナ」の称呼が生じるとは認められない。 /また,Yが取引先に送付した文書に記載された「ナーナニーナ」ついても,同様というべきである。
        • インターネットの検索サイトにおいて「ナーナニーナ」で検索すると,検索結果としてY商品に関する多数のサイトが表示されることが認められるが,これらの結果は,YがY商品を本件業務提携における標準ブランドである「ナーナニーナ」ブランドとして製造販売していたことによるものと推認され,Y標章の称呼が「ナーナニーナ」であることを示すものと認めることはできない。
    • 結論
      • 本件商標とY標章は,称呼において類似する印象を与えること自体は否定し難いものの,長音の有無において相違しており,外観においては全く異なり,観念においても類似するということはできないから,上記で認定した取引の実情を考慮しても,両者が全体として類似するとまでは認められない。