ホテル・ジャンキーズ掲示板事件控訴審:創作性の高低と保護範囲(インターネット掲示板への書き込みの著作物性)
平成14年10月29日判決 平成14年(ネ)第2887号・第2580号 著作権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
東京高裁6部(山下和明裁判長,設樂隆一裁判官,阿部正幸裁判官)
百選[4版]6事件,高林25頁
判決全文
- 事案の概要
- 原告らの書き込みの著作物性について
- 「著作物と認めるためのものとして要求すべき「創作性」の程度については,例えば,これを独創性ないし創造性があることというように高度のものとして解釈すると,著作権による保護の範囲を不当に限定することになりかねず,表現の保護のために不十分であり,さらに,創作性の程度は,正確な客観的判定には極めてなじみにくいものであるから,必要な程度に達しているか否かにつき,判断者によって判断が分かれ,結論が恣意的になるおそれが大きい。このような点を考慮するならば,著作物性が認められるための創作性の要件は厳格に解釈すべきではなく,むしろ,表現者の個性が何らかの形で発揮されていれば足りるという程度に,緩やかに解釈し,具体的な著作物性の判断に当たっては,決まり文句による時候のあいさつなど,創作性がないことが明らかである場合を除いては,著作物性を認める方向で判断するのが相当である。」
- 「ある表現の著作物性を認めるということは,それが著作権法による保護を受ける限度においては,表現者にその表現の独占を許すことになるから,表現者以外の者の表現の自由に対する配慮が必要となることはもちろんである。このような配慮の必要性は,著作物性について上記のような解釈を採用する場合には特に強くなることも,いうまでもないところである。しかし,この点の配慮は,主として,複製行為該当性の判断等,表現者以外の者の行為に対する評価において行うのが適切である,と考えることができる。一口に創作性が認められる表現といっても,創作性の程度すなわち表現者の個性の発揮の程度は,高いものから低いものまで様々なものがあることは明らかである。創作性の高いものについては,少々表現に改変を加えても複製行為と評価すべき場合があるのに対し,創作性の低いものについては,複製行為と評価できるのはいわゆるデッドコピーについてのみであって,少し表現が変えられれば,もはや複製行為とは評価できない場合がある,というように,創作性の程度を表現者以外の者の行為に対する評価の要素の一つとして考えるのが相当である。このように,著作物性の判断に当たっては,これを広く認めたうえで,表現者以外の者の行為に対する評価において,表現内容に応じて著作権法上の保護を受け得るか否かを判断する手法をとることが,できる限り恣意を廃し,判断の客観性を保つという観点から妥当であるというべきである。」
- 「原判決は,別紙原告記述及び転載文一覧表の原告記述欄…の各記述部分について,同表転載文欄記載の転載文中に,一部分が省略された形で転載されているため,転載された部分ごとに分けて,それぞれ著作物性を判断し,一部分につきその著作物性を否定した。しかしながら,原審の上記判断は,その判断手法自体に問題があるというべきである。まず,被控訴人らは,原告各記述部分の著作物性を主張するに当たり,一次的には,それの属する原告各記述…それぞれの全体が,一個の著作物であり,それの一部として著作物性を有すると主張しているものと理解するのが相当である。そうである以上,著作物性の有無の判断は,まず,これらそれぞれの記述全体について行われるべきである。そして,上記(1)で述べた解釈に照らすと,原告各記述は,一個の記述全体としてみたとき,いずれも記述者の個性が発揮されていると評価することができるから,これに対しては,著作物性を認めるのが相当である…。」
- インターネット上の書き込みについて格別の配慮を要するかについて
- 「膨大な表現行為が行われているため全容の把握が困難であること,匿名で行われた場合に表現者の承諾を得るのが困難であること,対価が得られないような程度の内容の表現行為が多く見られることは,インターネット上の書込みに限られず,他の分野での表現についてもいえることであるから,これらの事情は,インターネット上の書込みの著作物性の判断基準を他の表現についてよりも厳格に解釈することの根拠とすることはできない…。…インターネット上の書込みについて,その利用の承諾を得ることが全く不可能というわけではない。また,承諾を得られない場合であっても,創作性の程度が低いものについては,多くの場合,表現に多少手を加えることにより,容易に複製権侵害を回避することができる場合が多いと考えられるから,そのようなものについても著作物性を認め,少なくともそのままいわゆるデッドコピーをすることは許されない,と解したとしても,そのことが,インターネットの利用,発展の妨げとなると解することはできないというべきである。」
- 「確かに,例えば,他人の名誉を毀損するなど,その内容について法的な責任を追及されるような内容のインターネット上の書込みを匿名でした者が,他方で,その書込みについて権利を主張することが,権利の濫用などを理由に許されないとされる場合があり得ることは,否定できない。しかしながら,そのような場合があり得るからといって,その理屈をインターネット上の書込み一般に及ぼし,およそ匿名で行った書込みについては,内容のいかんを問わず,権利行使が許されないなどど解することができないことは明らかである。」