ファービー事件:応用美術(人形)

平成14年7月9日判決 平成12年(う)第63号 著作権法違反被告事件(1事件),平成13年(う)第177号 各著作権法違反被告事件(2事件)
仙台高裁刑事1部(松浦繁裁判長,根本渉裁判官,春名郁子裁判官)
判時1813号145頁,判タ1110号248頁,百選[4版]15事件,中山143頁,高林42頁
1事件判決全文
2事件判決全文

  • 事案の概要
    • 被告人は,「ポーピィ」という名称の玩具を販売していたところ,「ポーピィ」は,アメリカ合衆国のA社が著作権を有する「ファービー」の容貌姿態を模したものであって,被告人は,「ポーピィ」が,A社の有する著作権を侵害して製造されたものであることを知りながらこれを販売し,A社の著作権を侵害したとして,起訴された。
    • 弁護人は,著作権法は応用美術について,一品制作の美術工芸品に限って著作物に該当するとしているところ,「ファービー」のデザインは,応用美術のうち実用品のひな形に属し,美術工芸品にあたらない,仮に,美術工芸品以外の応用美術が著作物に該当する場合があるとしても,「ファービー」のデザイン形態は,客観的に見て,電子玩具としての産業上の利用を目的に創作され,玩具としての機能を離れて美的鑑賞の対象となるものではないから,著作物にあたらないとして無罪を主張した。
  • ファービー」の形態の著作物性について
    • ファービー」の形態は,物の形態あるいは外観の美的創作であって,著作権法の領域においては,実用品に供されあるいは産業上利用されることを目的として制作される応用美術といわれるものに属する。
    • ベルヌ条約は,本国で保護される応用美術の著作権の保護に関し,その保護の範囲及び保護条件を定める権能を各同盟国の国内法に委ねているから,「ファービー」のデザイン形態が,わが国の著作権法上著作物として保護の対象となるか否かは,わが国の著作権法の解釈にかかる。
    • 「実用品に供されあるいは産業上利用されることを目的として制作される応用美術については,昭和44年当時の著作権法の制定経過や同法が応用美術のうち美術工芸品のみを掲げていることなどを考慮すると,現行著作権法上は原則として著作権法の対象とならず,意匠法等工業所有権制度による保護に委ねられていると解すべきである。ただ,そうした応用美術のうちでも,純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象とされると認められるものは,美術の著作物として著作権法上保護の対象となると解釈することはできる。そこで,美術の著作物といえるためには,応用美術が,純粋美術と等しく美術鑑賞の対象となりうる程度の審美性を備えていることが必要である。これを本件で問題となっている実用品のデザイン形態についていえば,そのデザイン形態で生産される実用品の形態,外観が,美術鑑賞の対象となりうるだけの審美性を備えている場合には,美術の著作物に該当するといえる。」
    • ファービー」のデザイン形態は,「顔面の額に光センサーと赤外線センサーのための扇形の窓が設置され,額から眼球周辺及び口周辺にかけては一体成型のための平板な作りとなっており,目,口は球状のものが三角形上に3つ配置され,眼球及び口が動くため,その周囲が丸くくりぬかれて隙間があり,左右の眼球を連結する軸を隠すように,両目の間に半円形に隆起した部分があり,美感上重要な顔面部分に玩具としての実用性及び機能性保持のための形状,外観が見られ,また,刺激に反応して目,口,耳が動くことを感得させるため,それらが大きくされていることが認められる。」
    • 「このように,『ファービー』に見られる形態には,電子玩具としての実用性及び機能性保持のための要請が濃く表れているのであって,これは美感をそぐものであり 『ファービー』の形態は,全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず,純粋美術と同視できるものではない。」
    • 「以上のとおりで,本件『ファービー』のデザイン形態は,著作権法2条1項1号に定める著作物に該当しない…。」