版画写真事件:写真の著作物(平面物の撮影)

平成10年11月30日判決 昭和63年(ワ)第1372号 損害賠償請求事件
東京地裁47部(森義之裁判長,榎戸道也裁判官,中平健裁判官)
知的裁集30巻4号956頁,判時1679号153頁,判タ994号258頁,百選[4版]12事件,中山91頁,高林25頁
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告会社は,原告Aが撮影した版画の写真が掲載されている雑誌「版画藝術」を出版している出版社であるところ,原告らは,かつて「版画藝術」の編集に携わっていた被告Aが著作し,被告会社が出版した「版画事典」に,上記「版画藝術」中の写真が掲載されており,写真の著作権(複製権)を侵害するとして,被告らに対し,損害賠償を求めた。
    • 被告らは,本件写真は平面的な版画をできるだけ忠実に再現したものであるから,思想又は感情を創作的に表現したものではないとして,著作物該当性を争った。(版画の写真のほか,作家のポートレイト写真の著作権,記事及び図面の著作権及び編集著作権も問題になっているが,省略する。)
  • 版画の写真の著作権
    • 「本件写真は,原作品がどのようなものかを紹介するために版画をできるだけ忠実に再現することを目的として撮影された版画全体の写真であること,これらの対象となった版画は,おおむね平面的な作品であるが,(一部)については凹凸の部分があること,版画をできるだけ忠実に再現した写真を撮影するためには,光線の照射方法の選択と調節,フィルムやカメラの選択,露光の決定等において,技術的な配慮をすることが必要であること,が認められる。」
    • 「ところで,本件写真のように原作品がどのようなものかを紹介するための写真において,撮影対象が平面的な作品である場合には,正面から撮影する以外に撮影位置を選択する余地がない上,右認定のような技術的な配慮も,原画をできるだけ忠実に再現するためにされるものであって,独自に何かを付け加えるというものではないから,そのような写真は,『思想又は感情を創作的に表現したもの』(著作権法二条一項一号)ということはできない。
    • 「原告らは,平面的な作品を撮影する場合であっても,原画の芸術的特性を理解して,それを表現することが不可欠である旨主張し,本件写真の個々の作品について,原画の芸術的特性やそれを表現するために工夫した点について主張しており,(人証)は,平面的な作品を撮影する場合であっても原画の芸術的特性を理解して,それを表現することが必要である旨供述(する)が,そのようなことがあったとしても,それは,原画をできるだけ忠実に再現するためのものであると認められ…右認定を覆すに足りるものではない。」
    • 「また,右認定のとおり,本件写真の撮影対象には,完全に平面ではなく,凸凹があるものがあるが,…それらの凸凹はわずかなものであり,それがあることによって撮影位置を選択することができるとも認められないから,これらの完全に平面ではない作品を撮影した写真についても著作物性を認めることはできない。」