スモーキングスタンド事件:設計図の著作物性

平成9年4月25日判決 平成5年(ワ)第22205号 著作権侵害行為差止等請求事件
東京地裁29部(西田美昭裁判長,高部眞規子裁判官,池田信彦裁判官)
百選[4版]9事件,中山62頁,高林61頁
判決全文

  • 事案の概要
    • Aの依頼に応じてスモーキングスタンド等のインテリア美品の設計図を作成した原告が,同設計図を用いて製作される商品と酷似した商品を被告が製造,販売していることが,原告の設計図についての著作権(複製権,変形権,利用許諾権),著作者人格権(同一性保持権),人格権,設計図の所有権の各侵害に該当するとして,製造,販売の差止め,謝罪広告,損害賠償を求めた。
  • 設計図の著作物性について
    • 「本件設計図は,前記認定のとおり,Aがスモーキングスタンド,ダストボックス等の工業的に量産される商品を生産するため,Aの依頼に応じて制作されたものであり,製造を行うAの工場又は下請業者が,設計者である原告及び発注者であるAの意図したとおりに商品を製造することができるよう,具体的な什器の構造,デザインを細部にわたって通常の製図法によって表現したものである。工業製品の設計図は,そのための基本的訓練を受けた者であれば,だれでも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,その表現方法そのものに独創性を見出す余地はなく,本件設計図もそのような通常の設計図であり,その表現方法に独創性,創作性は認められない。本件設計図から読みとることのできる什器の具体的デザインは,本件設計図との関係でいえば表現の対象である思想又はアイデアであり,その具体的デザインを設計図として通常の方法で表そうとすると,本件設計図上に現に表現されている直線,曲線等からなる図形,補助線,寸法,数値,材質等の注記と大同小異のものにならざるを得ないのであって,本件設計図上に現に表現されている直線,曲線等からなる図形,補助線,寸法,数値,材質等の注記等は,表現の対象の思想である什器の具体的デザインと不可分のものである。本件設計図の右のような性質と,本件設計図に表現された什器の実物そのものは,デザイン思想を表現したものとはいえ,大量生産される実用品であって,著作物とはいえないことを考え合わせると,本件設計図を著作物と認めることはできない。 」
  • メモ
    • 設計対象である什器の設計思想と,その表現としての設計図の著作物性を峻別していることからすれば,最後の一文の「本件設計図に表現された什器の実物そのものは,デザイン思想を表現したものとはいえ,大量生産される実用品であって,著作物とはいえないことを考え合わせる」ことは論理的に不要であるとの指摘がある。百選[4版]21頁。