城の定義事件:マージャー理論(定義の著作物性)

平成6年4月25日判決 平成4年(ワ)第17510号 損害賠償等請求事件
東京地裁民事29部(西田美昭裁判長)
判時1509号130頁,判タ873号254頁,百選[4版]2事件,中山59頁,高林30頁
判決全文

  • 原告Aは歴史研究者,原告Bは原告Aの著書を出版した出版社。被告は出版社。原告Aは,研究の成果として,その著書において,城を「城とは人によって住居,軍事,政治目的をもって選ばれた一区画の土地と,そこに設けられた防御的構築物をいう。」と定義した。被告書籍には,城の定義として,「城とは(人によって)住居・軍事・政治目的をもって選ばれた一区画の土地と,そこに設けられた防御的構築物をいう」との記載があった。
  • 「本件定義は,原告が長年の調査研究によって到達した,城の学問的研究のための基礎としての城の概念の不可欠の特性を簡潔に言語で記述したものであり,原告の学問的思想そのものと認められる。そして,本件定義のような簡潔な学問的定義では,城の概念の不可欠の特性を表す文言は,思想に対応するものとして厳密に選択採用されており,原告の学問的思想と同じ思想に立つ限り同一又は類似の文言を採用して記述する外はなく,全く別の文言を採用すれば,別の学問的思想による定義になってしまうものと解される。また,本件定義の文の構造や特性を表す個々の文言自体から見た表現形式は,この種の学問的定義の文の構造や,先行する城の定義や説明に使用された文言と大差はないから,本件定義の表現形式に創作性は認められず,もし本件定義に創作性があるとすれば,何をもって城の概念の不可欠の特性として城の定義に採用するかという学問的思想そのものにあるものと認められる。」

  • 著作権法著作権の対象である著作物の意義について『思想又は感情を創作的に表現したものであって,…』と規定しているのは,思想又は感情そのものは著作物ではなく,その創作的な表現形式が著作物として著作権法による保護の対象であることを明らかにしたものと解するのが相当であるところ,右に判断したところによれば,本件定義は原告の学問的思想そのものであって,その表現形式に創作性は認められないのであるから,本件定義を著作物と認めることはできない。」
  • 表現の方法が一義的に決められる場合や非常に限定されるような場合には,当該表現方法についての著作物性を否定すべきことになる(マージャー理論)。