ロクラクII事件上告審:間接侵害

平成23年1月20日判決 平成21年(受)788号 著作権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
最高裁第一小法廷(金築誠志裁判長,宮川光治裁判官,櫻井龍子裁判官,横田尤孝裁判官,白木勇裁判官)
判決全文
原審判決全文
(原審)知財高裁平成21年1月27日判決
百選[4版]96事件,中山475頁,高林267頁

  • 事案の概要
    • 「本件は,放送事業者である上告人らが,「ロクラクII」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダー(以下「ロクラクII」という。)を用いたサービスを提供する被上告人に対し,同サービスは各上告人が制作した著作物である放送番組及び各上告人が行う放送に係る音又は影像(以下,放送番組及び放送に係る音又は影像を併せて「放送番組等」という。)についての複製権(著作権法21条,98条)を侵害するなどと主張して,放送番組等の複製の差止め,損害賠償の支払等を求める事案である。」
  • 争点
    • 「上告人らは,上記サービスにおいて複製をしているのは被上告人であると主張するのに対し,被上告人は,上記サービスの利用者が私的使用を目的とする適法な複製をしているのであり,複製をしているのは被上告人ではないと主張する。」(侵害主体性
  • 原審の認定した事実関係の概要
    1. 上告人らは,本件番組等(目録記載の各放送番組,各放送に係る音又は影像等)について複製権を有する。
    2. 「被上告人は,ロクラクIIを製造し,これを販売し,又は貸与している。/ロクラクIIは,2台の機器の一方を親機とし,他方を子機として用いることができる…。親機ロクラクは,地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信した放送番組等をデジタルデータ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能を有し,子機ロクラクは,インターネットを介して,親機ロクラクにおける録画を指示し,その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け,これを再生する機能を有する。/ロクラクIIの利用者は,親機ロクラクと子機ロクラクをインターネットを介して1対1で対応させることにより,親機ロクラクにおいて録画された放送番組等を親機ロクラクとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。/その具体的な手順は,(1) 利用者が,手元の子機ロクラクを操作して特定の放送番組等について録画の指示をする,(2) その指示がインターネットを介して対応関係を有する親機ロクラクに伝えられる,(3) 親機ロクラクには,テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が入力されており,上記録画の指示があると,指示に係る上記放送番組等が,親機ロクラクにより自動的にデジタルデータ化されて録画され,このデータがインターネットを介して子機ロクラクに送信される,(4) 利用者が,子機ロクラクを操作して上記データを再生し,当該放送番組等を視聴するというものである。」
    3. 「被上告人は,平成17年3月ころから,初期登録料を3150円とし,レンタル料金を月額6825円ないし8925円として,親機ロクラク及び子機ロクラクを併せて貸与するサービスや,子機ロクラクを販売し,親機ロクラクのみを貸与するサービスを開始した。/本件サービスの利用者は,子機ロクラクを操作して,親機ロクラクの設置されている地域で放送されている放送番組等の録画の指示をすることにより,当該放送番組等を視聴することができる。」
  • 原審の判断(請求棄却)
    • 「仮に各親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても,被上告人は本件サービスの利用者が複製を容易にするための環境等を提供しているにすぎず,被上告人において,本件番組等の複製をしているとはいえない」
  • 上告審の判断(原判決破棄,差戻し)
    • 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(サービス提供者)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(複製機器)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。」
  • 結論
    • 「以上によれば,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の機器の管理状況等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」
  • 金築誠志裁判官の補足意見
    1.  
      • 「上記判断基準に関しては,最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決(民集42巻3号199頁)以来のいわゆる『カラオケ法理』が援用されることが多く,本件の第1審判決を含め,この法理に基づいて,複製等の主体であることを認めた裁判例は少なくないとされている。『カラオケ法理』は,物理的,自然的には行為の主体といえない者について,規範的な観点から行為の主体性を認めるものであって,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断するものとされているところ,同法理については,その法的根拠が明らかでなく,要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし,著作権法21条以下に規定された『複製』,『上演』,『展示』,『頒布』等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。」
      • 「このように,『カラオケ法理』は,法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり,これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって,考慮されるべき要素も,行為類型によって変わり得るのであり,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は,社会的,経済的な観点から行為の主体を検討する際に,多くの場合,重要な要素であるというにとどまる。にもかかわらず,固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば,その点にこそ,『カラオケ法理』について反省すべきところがあるのではないかと思う。」
    2.  
      • 「原判決は,本件録画の主体を被上告人ではなく利用者であると認定するに際し,番組の選択を含む録画の実行指示を利用者が自由に行っている点を重視したものと解される。これは,複製行為を,録画機器の操作という,利用者の物理的,自然的行為の側面に焦点を当てて観察したものといえよう。そして,原判決は,親機を利用者が自己管理している場合は私的使用として適法であるところ,被上告人の提供するサービスは,親機を被上告人が管理している場合であっても,親機の機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,利用者に代わって整備するものにすぎず,適法な私的使用を違法なものに転化させるものではないとしている。しかし,こうした見方には,いくつかの疑問がある。」
      • 「法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。」
      • 「また,ロクラクIIの機能からすると,これを利用して提供されるサービスは,わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが,そのような者にとって,受信可能地域に親機を設置し自己管理することは,手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ,この種の業態が成り立つのであって,親機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得ない。」
      • 「さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。もっとも,本件は,親機に対する管理,支配が認められれば,被上告人を本件録画の主体であると認定することができるから,上記利益の帰属に関する評価が,結論を左右するわけではない。」
    3.  
      • 「原判決は,本件は前掲判例と事案を異にするとしている。そのこと自体は当然であるが,同判例は,著作権侵害者の認定に当たっては,単に物理的,自然的に観察するのではなく,社会的,経済的側面をも含めた総合的観察を行うことが相当であるとの考え方を根底に置いているものと解される。原判断は,こうした総合的視点を欠くものであって,著作権法の合理的解釈とはいえないと考える。」

まねきTV事件上告審:自動公衆送信装置

平成23年1月18日判決 平成21年(受)653号 著作権侵害差止等請求事件
最高裁第三小法廷(田原睦夫裁判長,那須弘平裁判官,岡部喜代子裁判官,大谷剛彦裁判官)
判決全文
原審判決全文
(原審)知財高裁平成20年12月15日判決
判時2038号110頁,中山479頁,高林267頁

  • 事案の概要
    • 本件は,放送事業者である上告人らが,「まねきTV」という名称で,放送番組を利用者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する機器を用いたサービス(以下「本件サービス」という。)を提供する被上告人に対し,本件サービスは,各上告人が行う放送についての送信可能化権著作権法99条の2)及び各上告人が制作した放送番組についての公衆送信権(同法23条1項)を侵害するなどと主張して,放送の送信可能化及び放送番組の公衆送信の差止め並びに損害賠償の支払を求める事案である。
  • 原審の認定した事実関係の概要
    1. 「上告人ら(上告人X4を除く。)は,放送事業者であり,それぞれ,原判決別紙放送目録記載のとおり,同目録記載の各放送(以下,同目録記載の各放送を「本件放送」と総称する。)について送信可能化権を有する。Aは,放送事業者であった者であり,同目録記載のとおり,同目録記載の放送について送信可能化権を有していた。/上告人ら(上告人X4を除く。)及びAは,それぞれ,別紙放送番組目録記載のとおり,同目録記載の各放送番組(以下「本件番組」と総称する。)を制作した。/上告人X4は,放送事業者であり,平成20年10月1日,会社分割により,Aのグループ経営管理事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した。」
    2. 「本件サービスにおいては,Bが販売するロケーションフリーという名称の商品(以下「ロケーションフリー」という。)が用いられるが,ロケーションフリーは,地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信する放送を利用者からの求めに応じデジタルデータ化し,このデータを自動的に送信する機能を有する機器(以下「ベースステーション」という。)を中核とする。/ロケーションフリーの利用者は,ベースステーションと手元の専用モニター等の端末機器をインターネットを介して1対1で対応させることにより,ベースステーションにおいてデジタルデータ化されて手元の端末機器に送信される放送を,当該端末機器により視聴することができる。その具体的な手順は,(1) 利用者が,手元の端末機器を操作して特定の放送の送信の指示をする,(2) その指示がインターネットを介して対応関係を有するベースステーションに伝えられる,(3) ベースステーションには,テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が継続的に入力されており,上記送信の指示がされると,これが当該ベースステーションにより自動的にデジタルデータ化される,(4) 次いで,このデータがインターネットを介して利用者の手元の端末機器に自動的に送信される,(5) 利用者が,手元の端末機器を操作して,受信した放送を視聴するというものである。」
    3. 「被上告人は,本件サービスを行うに当たり,利用者から入会金3万1500円,月額使用料5040円の支払を受けて,利用者が被上告人から本件サービスを受けるために送付した利用者の所有するベースステーションを,被上告人事業所内に設置し,分配機等を介してテレビアンテナに接続するとともに,ベースステーションのインターネットへの接続を行っている。/本件サービスの利用者(以下,単に「利用者」という。)は,ベースステーションと対応関係を有する手元の端末機器を操作することにより,ベースステーションの設置された地域の放送を視聴することができる。
  • 上告理由
    • 上告人らは,被上告人が,ベースステーションに本件放送を入力することにより,又は本件放送が入力されるベースステーションのインターネットへの接続を行うことにより,利用者が本件放送を視聴し得る状態に置くことは,本件放送の送信可能化に当たるとして,上告人らの送信可能化権の侵害を主張する。
    • また,上告人らは,被上告人が,本件番組を公衆である利用者の端末機器に送信することは本件番組の公衆送信に当たるとして,上告人らの公衆送信権の侵害を主張する。
  • 原審の判断(請求棄却)
    1. 送信可能化は,自動公衆送信装置の使用を前提とするところ(著作権法2条1項9号の5),ここにいう自動公衆送信装置とは,公衆(不特定又は多数の者)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならないベースステーションは,あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず,自動公衆送信装置とはいえないのであるから,ベースステーションに本件放送を入力するなどして利用者が本件放送を視聴し得る状態に置くことは,本件放送の送信可能化には当たらず,送信可能化権の侵害は成立しない。
    2. ベースステーションは,上記のとおり,自動公衆送信装置ではないから,本件番組を利用者の端末機器に送信することは,自動公衆送信には当たらず,公衆送信権の侵害は成立しない。
  • 上告審の判断(原判決破棄,差戻し)
    1. 送信可能化権侵害について
      • 「送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。/自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。
      • 「そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。
      • 「これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。」
    2. 公衆送信権侵害について
      • 「本件サービスにおいて,テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体が被上告人であることは明らかである上,上記(1)ウのとおり,ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体についても被上告人であるというべきであるから,テレビアンテナから利用者の端末機器に本件番組を送信することは,本件番組の公衆送信に当たるというべきである。」
  • 結論
    • 「以上によれば,ベースステーションがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しないことのみをもって自動公衆送信装置の該当性を否定し,被上告人による送信可能化権の侵害又は公衆送信権の侵害を認めなかった原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。原判決は破棄を免れず,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」

SARVH v. 東芝事件:私的録画補償金に関する製造業者の協力義務

平成22年12月27日判決 平成21年(ワ)第40387号 損害賠償請求事件
東京地裁民事46部(大鷹一郎裁判長)
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告(私的録画補償金(著作権法30条2項)を受ける権利をその権利者のために行使することを目的とする指定管理団体)が,
    • 被告(DVD録画機器を製造,販売)に対し,
    • 被告各製品はデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(「特定機器」。同法30条2項)に該当するため,
    • 被告は,製造業者等の協力義務(同法104条の5)として,被告各製品を販売するに当たって,その購入者から被告各製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して原告に支払うべき法律上の義務があるとし,
    • 上記協力義務の履行として,又は上記協力義務違反等の不法行為による損害賠償として,
    • 被告各製品に係る私的録画補償金相当額及び遅延損害金の支払を求めた。
  • 被告各製品の特定機器該当性
    • 法が政令に特定機器の指定を委任した趣旨が,機器の範囲を客観的・一義的な技術事項により特定し,また迅速な対応を可能にすることにあることからすれば,特定機器の解釈に当たっては,政令の文言に忠実な文理解釈によるのが相当である。
    • 法30条2項においても,施行令1条においても,同条2項3号の特定機器において固定される対象に関し,アナログデジタル変換処理が行われる場所的要素については何ら規定されていないから,施行令1条2項3号の「アナログデジタル変換が行われた影像」とは,変換処理が行われる場所のいかんに関わらず,「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと解するのが相当である。
    • 被告各製品は,いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当する。
  • 製造業者等の協力義務としての支払義務の有無
    • 法104条の5においては,特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとされる行為が,具体的に特定して規定されていないのであるから,同条の規定をもって,特定機器の製造業者等に対し,特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解するのが相当である。
    • 法104条の5の規定が,具体的な作為義務の内容を特定して規定することなく,あえて「協力」という抽象的な文言を用いるにとどまっていることからすれば,立法者としては,法104条の5において,製造業者等に上乗せ徴収・納付を行うべき法律上の具体的な義務を課すことまではせずに,法的強制力の伴わない抽象的な義務としての協力義務を負わせるにとどめるという立法政策を採用したものと解するのが相当である。

A v. 財団法人住宅金融普及協会 : 図表の著作物性

平成22年12月21日判決 平成22年(ワ)第12322号
東京地裁民事第46部(大鷹一郎裁判長)

  • 金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について,各金融機関ごとに,商品名,変動金利の数値,固定金利の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べた対比した表は,思想又は感情を創作的に表現したものということはできず,「図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にあたらない。
  • また,当該表は,素材の選択,配列に関し創作性を認めることができないから,「編集著作物」(著作権法12条1項)にもあたらない。
  • さらに,当該表に表示される情報に関し,データ構造の主張立証がなく,また,情報の選択に創作性は認められないから,「データベースの著作物」(著作権法12条の2第1項)にもあたらない。

判決原文データ:http://kanz.jp/hanrei/detail.html?idx=6653

廃墟写真事件:翻案,アイデア・表現二分論(廃墟写真における被写体の選択,構図,撮影方向)

平成22年12月21日判決 平成21年(ワ)第451号 損害賠償等請求事件
東京地裁民事46部(大鷹一郎裁判長)
判決全文

  • 原告が撮影した廃墟写真(複数)と同一の被写体を,被告が撮影し,それらの写真を掲載した各書籍を出版及び頒布した行為が,著作権(翻案権,原著作物の著作権者としての複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したなどと主張。
  • 著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解されるところ,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分や表現上の創作性がない部分は,ここにいう既存の著作物の表現上の本質的な特徴には当たらないというべきである。
  • 本件において,原告は,「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち,原告写真の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨主張しているので,被告写真の作成がこれに対応する原告写真の翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,原告が主張する原告写真における被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が上記のような表現上の本質的な特徴に当たるかどうか被告写真において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある。
  • 原告写真において,特定の廃墟をを被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく,また,その撮影構図ないし撮影方向のみをもって,原告が主張するような印象や見る者に与える強いインパクトを感得することができるものではないから,原告写真における被写体及び構図ないし撮影方向そのものは,表現上の本質的な特徴ということはできない。
  • 原告写真と被告写真とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており,被告写真から原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。

ライブドア裁判傍聴記事件控訴審:創作性(裁判傍聴記の著作物性)

平成20年7月17日判決 平成20年(ネ)第10009号 発信者情報開示等請求控訴事件
知財高裁3部(飯村敏明裁判長,中平健裁判官,上田洋幸裁判官)
判時2011号137頁,判タ1274号246頁,百選[4版]5事件,高林24頁
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告・控訴人は,東京地裁で開かれたA(堀江貴文)に対する証券取引法違反被告事件の公判期日における証人尋問を傍聴した結果をまとめた傍聴記をインターネットを通じて公開している。被告・被控訴人の管理・運営する「Yahoo!ブログ」サービスを利用するブログに,原告の傍聴記に類似するブログ記事が原告に無断で掲載された。このため,原告は,上記ブログ記事が原告の傍聴記の著作権を侵害すると主張して,いわゆるプロバイダ責任制限法4条1項に基づき,ブログ記事の発信者の情報開示を求めるとともに,著作権法112条2項に基づき,ブログ記事の削除を求めた。
  • 著作権侵害との主張について
    • 著作権法2条1項1号所定の『創作的に表現したもの』というためには,当該記述が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でないが,記述者の何らかの個性が表現されていることが必要である。言語表現による記述等の場合,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,記述者の個性が現われていないものとして,『創作的に表現したもの』であると解することはできない。」
    • 「また,同条所定の『思想又は感情を表現した』というためには,対象として記述者の『思想又は感情』が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら『事実』(この場合における『事実』とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば『誰がいつどこでどのようなことを行った』,『ある物が存在する』,『ある物の態様がどのようなものである』ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の『思想又は感情』を表現したことにならないというべきである(著作権法10条2項参照)。」
    • 証言内容を記述した部分は,証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。
    • 冒頭部分において,証言内容を分かりやすくするために,大項目及び中項目等の短い表記を付加しているが,このような付加的表記は,大項目については,証言内容のまとめとして,ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず,また,中項目については,いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから,原告の個性が発揮されている表現部分はなく,創作性を認めることはできない。
    • 原告は,傍聴記について,(1) 証人の経歴に関する部分を主尋問と反対尋問から抽出している,(2) 実際に証言された順序ではなく,時系列にしたがって順序を入れ替えて記載している,(3) 固有名詞を省略したなどの創意工夫があるため,創作性が認められるべきである旨主張するが,経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず,表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないし,実際の証言の順序を入れ替えたり,固有名詞を省略したことが,原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。

スメルゲット事件控訴審:写真の著作物(立体物の撮影)

平成18年3月29日判決 平成17年(ネ)第10094号 請負代金請求控訴事件
知財高裁4部(塚原朋一裁判長,田中昌利裁判官,清水知恵子裁判官)
判タ1234号295頁,百選[4版]13事件,中山90頁,高林24頁
判決全文

  • 事案の概要
    • インターネット上のホームページで商品の広告販売を行うA社から営業権の譲渡を受けた原告(控訴人)が,Aの著作物である本件写真1(固形据え置きタイプの商品),本件写真2(霧吹きタイプの商品)及び文章を被告ら(被控訴人ら)が無断で利用したことが著作権侵害に該当し,同侵害により生じた損害賠償請求権をAより譲り受けたと主張して,被控訴人らに対し,損害賠償を求めた。
    • 被控訴人らは,本件写真1,本件写真2(あわせて「本件各写真」という。)は著作物には該当しないとして争った。(文章についての判断は割愛する。)
  • 本件各写真の著作物性及び著作権侵害の有無
    • 総論
      • 「写真は,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影の付け方,色彩の配合,部分の強調・省略,背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。」
      • 「このような表現は,レンズの選択,露光の調節,シャッタースピード被写界深度の設定,照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば,オートフォーカスカメラやデジタルカメラ機械的作用を利用した結果として得られることもある。また,構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても,偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように,撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。」
      • 「そして,ある写真が,どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを,その写真自体から知ることは困難であることが多く,写真から知り得るのは,結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず,静物や風景を撮影した写真でも,その構図,光線,背景等には何らかの独自性が表れることが多く,結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ,創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。」
      • 「もっとも,創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。」
    • 本件各写真の著作物性
      • 「本件写真1は,固形据え置きタイプの商品を,大小サイズ1個ずつ横に並べ,ラベルが若干内向きとなるように配置して,正面斜め上から撮影したものである。光線は右斜め上から照射され,左下方向に短い影が形成されている。背景は,薄いブルーとなっている。/本件写真2は,霧吹きタイプの商品を,水平に寝かせた状態で横に2個並べ,画面の上下方向に対して若干斜めになるように配置して,真上から撮影したものである。光線は右側から照射され,左側に影が形成されている。背景は,オフホワイトとなっている。」
      • 「以上から,本件各写真には,被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているということができる。」
      • 「なお,…本件各写真は,同じタイプの商品を撮影した被控訴人らによる写真と比較しても,被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,色彩の配合,背景等が異なっており,これらの要素を総合した全体の表現としても,異なる印象を与えるものである。」
      • 「本件各写真については,…被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているのであるから,創作性の存在を肯定することができ,著作物性はあるものというべきである。他方,…その創作性の程度は極めて低いものであって,著作物性を肯定し得る限界事例に近いものといわざるを得ない。」
    • 本件各写真の複製権の侵害の有無
      • 「本件各写真の創作性は極めて低いものではあるが,被控訴人らによる侵害行為の態様は,本件各写真をそのままコピーして被控訴人ホームページに掲載したというものであるから,本件各写真について複製権の侵害があったものということができる。」
  • メモ
    • 本件各写真はこちらで確認できる。