電車線設計用プログラム事件:プログラムの著作物性

平成15年1月31日判決 平成13年(ワ)第17306号 著作権侵害差止等請求事件
東京地裁29部(飯村敏明裁判長,今井弘晃裁判官,大寄麻代裁判官)
判時1820号127頁,判タ1139号269頁,百選[4版]14事件,中山98頁,高林70頁
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告は,AutoCAD上で作動し,鉄道電気設計及び設備管理用の図面を作成するコンピュータ支援設計製図ソフトプログラム(原告プログラム)を保有し,開発,販売等を行っているところ,被告も,AutoCAD上で作動し,鉄道電気設計及び設備管理用の図面を作成するコンピュータ支援設計製図ソフトプログラム(被告プログラム)を開発,販売等していたことから,原告が,被告の行為は原告が有する原告プログラムの著作権(複製権,翻案権,譲渡権)を侵害するとして,製造等の差止め及び損害賠償を求めた。
    • 被告は,原告が被告プログラムとの類似性を主張する原告プログラム中の部分は,いずれも創作性を有しないなどと主張して争った。
  • 総論:プログラムの創作性の有無及び同一性の判断について
    • 「プログラムは,その性質上,表現する記号が制約され,言語体系が厳格であり,また,電子計算機を少しでも経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。仮に,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又は極くありふれたものである場合においても,これを著作権法上の保護の対象になるとすると,電子計算機の広範な利用等を妨げ,社会生活や経済活動に多大の支障を来す結果となる。また,著作権法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,機能やアイデアを保護するものではないところ,特定の機能を果たすプログラムの具体的記述が,極くありふれたものである場合に,これを保護の対象になるとすると,結果的には,機能やアイデアそのものを保護,独占させることになる。したがって,電子計算機に対する指令の組合せであるプログラムの具体的表記が,このような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていないものとして,創作性がないというべきである。」
    • 「さらに,プログラム相互の同一性等を検討する際にも,プログラム表現には上記のような特性が存在することを考慮するならば,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比することにより,実質的に同一であるか否か,あるいは,創作的な特徴部分を直接感得することができるか否かの観点から判断すべきであって,単にプログラムの全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない。」
  • あてはめ
    • 「原告プログラムのメニュー表示部のプログラム記述は,全体として短く,その大部分が,AutoLISP言語で定められた一般的な関数を用いて,簡単な指令を組み合わせたものにすぎない。したがって,原告プログラムは,制作者の個性が発揮された表現とはいえず,創作性がない。/また,原告プログラムのメニュー表示部における処理の流れは,…法10条3項3号所定の『解法』に当たるというべきであって,著作権の保護が及ばない。」
    • 「原告プログラムのキロ行程オフセット値の入力部の記述は,画面上に『…』という文字列を表示した上,ユーザーが入力した実数値を,AutoLISP言語の一般的な関数を用いて,変数に設定するという極めて簡単な内容を,ごく短い構文で表現するものである(から,)…制作者の個性が発揮された表現とはいえず,創作性はない。」
    • 「原告プログラムにおける入力項目として何を用いるかという点は,アイデアであり,著作権法上の保護の対象となるものではない。また,『…』の順序で変数に値を設定するという処理の流れも,法10条3項3号所定の『解法』に当たり,著作物としての保護を受けない。/仮に,原告プログラムの初期設定部の具体的記述に,創作性が生じると解する余地があるとしても,前記認定の原告プログラムの内容に照らして,創作性の範囲は極めて狭いものというべきである。そして,被告プログラムと原告プログラムとは,初期設定部に用いられている構文上の相違によって具体的記述が大きく相違する。被告プログラムの初期設定部の具体的記述は,原告プログラムの初期設定部の記述と実質的に同一とはいえないし,原告プログラムの創作性を有する本質的な特徴部分を直接感得することもできない。/したがって,原告プログラムの初期設定部について複製権又は翻案権侵害があるとは認められない。」
    • 「シェイプ定義の記述は,AutoCADによって読み込まれる情報を記載した単なるデータであるから,それ自体独立して,『電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令の組み合わせたものとして表現したもの』に当たらないと解する余地もなくはない。しかし,たとえ,当該記述が,独立性がなく,個別的に利用することができないものであったとしても,データ部分を読み込む他のプログラムと協働することによって,電子計算機に対する指令を組み合わせたものとして表現したものとみることができるのであるから,そのような記述も,同号所定のプログラムに当たると解して差し支えない。/そうすると,原告のシェイプ定義の記述は,具体的な記述に創作性がある限りにおいて,著作権法の保護の対象になるというべきである(が,)…原告のシェイプ記述の座標値の記述に,創作性があるとはいえない。」