仏壇彫刻事件:応用美術(仏壇彫刻)

昭和54年7月9日判決 昭和49年(ワ)第291号 著作権侵害排除等請求事件
神戸地裁姫路支部民事部(砂山一郎裁判長,見満正治裁判官,辻川昭裁判官)
無体裁集11巻2号371頁,百選[4版]16事件,中山143頁,高林42頁
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告は,彫刻師であるところ,昭和44年ころ,仏壇の内部を飾る彫刻(本件彫刻)の原型を完成し,これにプラスチックを流しこんで制作した製品を販売していたところ,被告は,上記製品を一部修正した製品を販売等していたため,原告が,被告の行為により本件彫刻の著作権が侵害された旨主張し,複製等の差止め,型枠の廃棄及び損害賠償を請求した。
    • 被告は,本件彫刻は,(1) 創作性を欠く,(2) 美術の範囲に属するものではないと主張し,その著作物性を争った。
  • 本件彫刻の創作性
    • 「本件彫刻は原告が長年の研究の成果として独自の着想により仏教美術の一部に属する仏壇装飾につき感情を創作的に表現したものと認めることができる。」
  • 本件彫刻の美術性
    • 「一般に,美術は,(1)個別に製作された絵画・版画・彫刻の如く,思想または感情が表現されていて,それ自体の鑑賞を目的とし,実用性を有しない純粋美術と,(2)実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用した応用美術に分かれ,後者すなわち応用美術はさらに,(イ)純粋美術として製作されたものをそのまま実用品に利用する場合,(ロ)既成の純粋美術の技法を一品製作に応用する場合(美術工芸品),および,(ハ)右純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大量生産される実用品の製作に応用する場合等に細分されている…。」
    • 「本件彫刻は,…原型たる木彫そのものを一品として鑑賞するものではなく,原型に合わせて型枠をシリコンゴムで作り,これにプラスチツクを注入して同型のものを大量に製作し,これを仏壇の装飾に利用することを目的としているものであるから,前記応用美術のうち(ハ)の部類に属する…。」
    • 著作権法は,その二条一項一号で美術の範囲に属するものを著作物の対象とすると規定するとともに,同条二項では,『美術の著作物』には美術工業品を含む,と規定しているので,応用美術のうち美術工芸品に属しないものは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうるかは問題である。」
    • 実用品に利用されていても,そこに表現された美的表象を美術的に鑑賞することに主目的があるものについては,純粋美術と同様に評価して,これに著作権を付与するのが相当である…,換言すれば,視覚を通じた美感の表象のうち,高度の美的表現を目的とするもののみ著作権法の保護の対象とされ,その余のものは意匠法(場合によつては実用新案法等)の保護の対象とされると解する…,したがつて,著作権法二条二項は,…高度の美的表現を目的とする美術工芸品にも著作権が付与されるという当然のことを注意的に規定しているものと解される。」
    • 「工業上画一的に生産される量産品の模型あるいは実用品の模様として利用されることを企図して製作された応用美術作品も原則的に専ら意匠法等の保護の対象になるわけであるが,右作品が同時に形状・内容および構成などにてらし純粋美術に該当すると認めうる高度の美的表現を具有しているときは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうる…。」
    • 「本件彫刻は仏壇の装飾に関するものであるが,表現された紋様・形状は,仏教美術上の彫刻の一端を窺わせ,単なる仏壇の付加物ないしは慣行的な添物というものではなく,それ自体美的鑑賞の対象とするに値するのみならず,…彫刻に立体観・写実観をもたせるべく独自の技法を案出駆使し,精巧かつ端整に作品を完成し,誰がみても,仏教美術的色彩を背景とした,それ自体で美的鑑賞の対象たりうる彫刻であると観察することができるものであり,その対象・構成・着想等から,専ら美的表現を目的とする純粋美術と同じ高度の美的表象であると評価しうるから,本件彫刻は著作権法の保護の対象たる美術の著作物であるといわなければならない。」