アップル商標(MULTI-TOUCH)事件:商標法3条1項3号,同法4条1項16号該当性

平成23年12月15日判決 平成23年(行ケ)第10207号 審決取消請求事件
知財高裁第2部(塩月秀平裁判長,古谷健二郎裁判官,田邉実裁判官)
判決全文

  • 事案の概要
    • 原告は,本願商標(「MULTI-TOUCH」)について商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた。争点は,本願商標が商標法3条1項3号,4条1項16号に該当するかどうかである。
  • 審決の理由の要点
    • 本願商標を構成する文字とつづりを同じくする「multi-touch」の文字及びその構成文字に相応して生ずる読みを片仮名で表した「マルチタッチ」の文字は,「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」を表すものと認められる。 そして,「マルチタッチ」の文字は,他社の抵抗膜方式タッチパネル,ノートパソコン等に係る宣伝・広告において使用されているほか,各社が製造するパーソナルコンピュータ,液晶ディスプレイ等を紹介する他人のウェブページにおいても,上記の入力方式の意味をもって使用されている。
    • そうすると,「マルチタッチ」の文字は,抵抗膜方式タッチパネル,パーソナルコンピュータ,液晶ディスプレイ等について,上記の入力方式を意味するものとして取引上普通に使用されているというべきであり,かかる意味を有する「マルチタッチ」を欧文字で表記した本願商標も,これに接する取引者,需要者が上記の入力方式を意味するものと理解,把握するものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たしている商標とは認識しないというべきである。
    • したがって,本願商標は,これを指定商品中,上記の入力方式を採用したコンピュータ等に使用するときは,商品の品質,機能を表示するにとどまるものとみるのが相当であり,上記商品の取引に際し,必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであって,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でなく,商標法3条1項3号に該当する。
    • また,本願商標を,指定商品中,上記の入力方式を採用しないコンピュータ等に使用するときは,あたかもこれらの商品が上記の入力方式を採用したものであるかのように,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるから,商標法4条1項16号に該当する。
  • 判決
    • 本願商標は「MULTI-TOUCH」の欧文字からなるところ,本願商標と読みを同じくする「マルチタッチ」又は綴りを同じくする「Multi-Touch」の文字は,遅くとも2003年までには,我が国と米国の複数のタッチパネル等の開発者によって,複数の指でタッチパネル等の機器に触れることによる入力・操作方式を示すものとして使用されていたのであり,そのような入力方式に対応するタッチパネルが原告の「iPhone」等に採用されたことにより一般にも注目され,本件審決時までには,上記の入力方式を示す用語として用語辞典等にも収録され,かつ,パソコン,タッチパネル,スマートフォン等の各種商品について,これらの商品を製造する会社はもとより,出版社や新聞社等においても,上記の入力方式を示す用語としての使用が広がったことが認められる。そうであれば,「マルチタッチ」を欧文字で表記した本願商標に接した上記商品の取引者,需要者は,上記の入力方式を意味するものとして理解するのであって,自他商品の識別機能を有しないものと認めざるを得ない。
    • したがって,そのような本願商標を,その指定商品中,上記の入力方式を採用したパソコン等に使用するときは,商品の品質,機能を表示するものであるから,商標法3条1項3号に該当する。また,本願商標を,その指定商品中,上記の入力方式を採用しないパソコン等に使用するときは,これらの商品が上記の入力方式を採用したものであるように品質について誤認を生ずるおそれがあるから,商標法4条1項16号に該当する。